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冥冥乃志

ソフトウェア開発会社でチームマネージャをしているエンジニアの雑記。アウトプットは少なめです。

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2015年下半期で印象に残った本

その他

11月くらいから仕事に関する本やビジネス書も読むようになりました。下記エントリで触れたとおり、数を読むことで見えた景色が過去に見てたものと同じであることに気づいたことに加えて、仕事を通じてこれから数年でやりたいことが見えてきたということが理由です。

自分の思想として「こうだ!」というのができているわけではありませんが、方向性を見据える程度には現時点での芯ができてきたとみていいのでしょう。そろそろ思想という制約を外そうと思って読み始めました。

もちろん数を読むことにも意義はあります。不思議なことに、数を読んでると必要なときに必要な本に出会えるということが起きるようになりました。しかもだいたい積ん読の中の「これ今じゃねーな」で放っておいたものから見つかるというパターン。積ん読が増えてもいいことはありそうです。

というわけで、下半期に読んだ本の中から印象深かったものと、今年一番幸せな読書体験をさせてもらった本を紹介しようかと思います。

フィクション以外

東日本大震災の実体験に基づく 災害初動期指揮心得

これはもう、過去のエントリでも語っていますね。

mao-instantlife.hatenablog.com

有事のチームビルディングが中心ですが、平時でも役立てることは可能ですし、何より読み物としても非常に面白い。Kindleでは無料で読めるはずなので皆さん読みましょう。

逝きし世の面影

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

明治維新を通じて西洋に近づく過程で、失われてしまった文化の有り様を外国人の記述から拾っていこうという本です。この手法は外国人礼賛からではありません。文化の有り様は中にいると当たり前のことなので、特徴が特徴として認識されないために、特に記載する動機を持たないのです。違う文化との差異を元に捉えないと顕在化させることができないということですね。

本書で触れられている文化に優劣はありませんが、失われてしまったことは厳然とした事実です。そして、失われた文化が復活していないことも本書を読めば事実として突きつけられます。本書を読んでいて、文化とは非常に脆く、簡単に上書きされるものだという認識を持つに至りました。そういう意味では、今年の合同勉強会の内容に大きな影響を与えた本です。

ワーク・ルールズ!

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える

前職の社長がよく言ってた言葉で、一つだけ腹に落ちているものが「組織は戦略によってつくられる」です。組織のミッションやビジョンを達成するツールとして組織があるのであって、組織が先ではない。前職でそれができていたかどうかは疑問ではありますが。

著者のバックボーンはプログラマーではありません。純粋に人事畑を歩んできた人です。それでもプログラマー文化に非常に近いやり方で人事制度を作っていっています。人事の領域であってもグーグルのエンジニアの文化が通用するという実績が素晴らしいと思います。仕事の良いやり方に共通項が生まれるのだな、と感じるのは、著者のやり方はグーグルに入社する前から可能な限り実践されていたような記述があるからです(思う存分やっているのはグーグルに入社してから)。

ちなみに、NHKスペシャルとかで紹介されて話題になったあの看板での求人とかも裏話もあります。結局あれで入った人はいなかったらしいし、あれはやめちゃったらしいです。結局のところ王道のやり方に戻ったのも面白い。

ユーザーストーリーマッピング

ユーザーストーリーマッピング

ユーザーストーリーマッピング

プロダクトマネジメントをやろうと思ってから狙って買いました。今の仕事にとってはコンパスとなってくれる本です。仕事中に一番開いている本。あれは仕事してるんですよ、誰となく。

いつだって全てを作るには時間が足りないんです。喧々諤々するのはいいですが、プロダクトを積み重ねないとビジネスは始まらない、事前に完成系を洗い出すことを目指していると何もできないままビジネスチャンスを逃すということが起こりえます。ドキュメンテーションを否定するわけではないですが、完成させたいのはドキュメントではなくビジネスとしての成果です。

かといって対話だけではダメで、対話から得た知識はちゃんと構造化して重要な部分を見極める必要があります。最小限の投資で着実な結果を積み重ねるために、見込みや仮説を持って決断を下すために、現状では一番シンプルな方法なのではないかと思います。ペンと付箋があればすぐ始められるというのは、経済的なハードルを上げなくていいのもポイント高いです。

稼ぐまちが地方を変える

補助金の危険性を指摘し、地域経済の独立性を保ったまま地方の経済圏を回復させるために何をすればいいか、著者の具体的な取り組みが非常にコンパクトにまとまっています。完全に「リーン・スタートアップ」です。ありがとうございます。という感じ。コンパクトさにおいては「アジャイルサムライ」に引けを取らない良本です。

地方が自力で稼ぐということがいかに健全か、ということです。この自力でというのは国の補助金の話だけではなく、全国的な規模の大きな資本にぶら下がること前提のビジネスモデルも含まれています。さらっと武雄のやり方を刺しに行ってるのも心地よいです。やはり、維持可能なサービスを立ち上げて堅実にそれを育てていく、地域に雇用と税収を生むのが王道なんですね。

中小企業が生き残る道にも通じます。これも絶妙なタイミングで読みました。弊社も大きな資本力を持っている会社ではないですし、どうやって生き残っていくかというのは様々なレベルで考えられています。その時に、いかに独立性を保ちながら存在感を増していくか。そういう会社を作ることに貢献するためにもこのタイミングで読んでおいて良かったです。

フィクション

わたしを離さないで

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

ドラマ化されるから、というわけではないですが。好きな本ですが、後味の悪さと作品が問いかけるものの重さもあって、人に勧めるのはどうしても躊躇してしまうのです。抑制の効いた語り口で次第に明らかになる(ただし直接的ではない)制度のエグさは、きれいにまとまっているストーリーとは裏腹の負荷を読み手にかけます。

基本的に「お前はどうするんだ?」という問いかけの本。この本のエグさは、登場人物ではなくその設定となる制度を作り出した物語に出て来ない人たちにあると思うんですよね。この作品では、自分が利益を享受している何かの背景にあるものに、徹底的に目を向けなくていいような制度を作っています。

ただ、ドラマ化に対しては若干の不安があります。「アルジャーノンに花束を」がドラマになった時にも感じたことですが、一人称(当事者)であるからこその後味の悪さとか恐怖とか悲しさとか、その中で受け入れる過程を当事者の視点で見るからこそという作品だからです。映像作品の第三者視点では難しいのではないか、と思っています。

モナドの領域

モナドの領域

モナドの領域

御大自重しましょう。なんとなーく読み始めの段階からそんな予感はしてたんですよ。「初めて見たような表情をする」シーンとか。80歳にもなって何やってるんですかもう。。。

筒井康隆の大ファンなんですよ。特に80年代後半から2000年代始めくらいにかけてのメタフィクションとか表現方法にこだわっていた頃の御大が大好きです。「虚構船団」と「朝のガスパール」と「パプリカ」が特に好きな作品です。その頃は新刊が出るたびに追いかけたり、舞台見に行ったりしていました。

この年齢でこんな作品が書けるのであれば、以前オフ会の雑談で妄想した「虚無回廊の続きを筒井康隆が書いてオチをつける」というのが割と出来そうな気がします。どうせあの作品のまっとうなオチは小松左京にしかつけることができないんだから、どうせなら無茶苦茶なオチにしてしまった方が某作品の第二部みたいな微妙な感じにならずにいいじゃないですか。

出星前夜

出星前夜 (小学館文庫)

出星前夜 (小学館文庫)

普段時代劇や歴史物って読まないし食指も動かないんですが、一万円選書のように制約があったので良い機会になりました。今後もスタンスは変わらないとは思いますが、ジャンル違いを敢えて読むための機会は発見が得られますね。本の選択肢が増えたのは事実だと思います。

島原の乱を描いた小説という時点で、物語としては悲劇的な結末を迎えることははっきりしているわけですが、特に人が集まるということによって当初の純粋さを失っていく悲劇が丹念に描かれています。純粋さを保つのは難しいけれど、行動せざるをえない状況だともう絶望的な蹴りのつけ方にしかならないんだな、と。虐げられ方とか頭の弱い指導者によって破滅的な結末に向かって転げ落ちていくところとか、読んでいて「吉里吉里人」を思い出しました。

ただ、後味の悪さが酷すぎるので、松倉家の顛末は物語の中に含めて書いておいてほしいと思いました。。。

深紅の碑文

深紅の碑文 (上) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

深紅の碑文 (上) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

深紅の碑文 (下) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

深紅の碑文 (下) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

名作、もうその一言でいいんじゃないですかね。私的「押しつけてでも読ませたい現代の名作」入りを果たしました。純粋に滾るんです。読んでいてKindleのマーカーが増える増える。青澄の情熱的な仕事っぷりに惚れろ、へし折られるフラグは気にするな、というやつです。

最後の一文が特に素晴らしいですね。「華竜の宮」もこの作品も、大きなストーリーはバッドエンドなんですよ。特に「深紅の碑文」は「華竜の宮」で提示された未来が変わることがない状態で物語が進んでいきます。その中で希望をつかんできた登場人物が最後につぶやく言葉が、「華竜の宮」のエピローグで感じる読後感にもしっかりと繋がっています。

是非、「華竜の宮」-> 「深紅の碑文」 -> 「華竜の宮」のエピローグという流れで読んでください。というか誰かアニメ化してくれ。切望。

火星の人

火星の人

火星の人

I社駆動ビブリオバトルが「読んでない作品を紹介する」縛りを妄想するきっかけとなった作品です(私が紹介した)。岡山のこの悪ノリの良さはイベントのきっかけとなっている部分なので見逃せない部分ではありますが、悪ノリするのがおっさんばっかりなのはちょっと反省したほうがいいと思います。

火星で、科学を武器にロビンソンクルーソーする話と言ってしまえばそれだけなんですが、この作品の肝はユーモアのセンスが素晴らしいということ。サバイバル系の真面目なハードSFかと思ったら、まさか「ダンジョン飯」と同じベクトルの作品だとは思いませんでした。ハードSFコメディ、堂々の爆誕です。「見て見て!おっぱい!->(.Y.)」と「くたばれエントロピー」は名言だと思います。

映画化されますね。「オデッセイ」という邦題(英語版のサイトを見て、アメリカ公開時のタイトルが原題の通りであることは確認済み)のセンスはぶっちゃけどうかと思いますが、公式Twitterアカウントの中の人は作品への愛に溢れていてすごく好印象です。今からマット・デイモンが「見て見て!おっぱい!->(.Y.)」と言うところを想像してニヤついています。

人質の朗読会

別に感動して涙流したいわけではないので、感動を売りにするような文句が帯についた本というのは押し売られている気がして手に取らない程度には天の邪鬼なのですが、たまには読んでみるものです。自分の思い出を語りたくなるのはいい作品だと思いました。

こういう作品は好きですね。妻と結婚する前にバイトに行って帰ってきた時に点いていた家の明かりの話とか、妻が語ってくれた祖母への思いと私の誕生日の話とか、そういう人には言わないけど大事にしている想い出みたいなものを思い起こさせてくれます。押し売られている感じはしませんでした。

2015年全体を通して最も印象に残った本

これらオーシャンクロニクルとの出会いにつきます。一気にSFへの熱が復活してしまった作品でした。