「東日本大震災の実体験に基づく 災害初動期指揮心得」がすごい
ひねりも何もないタイトルですが、そんなものいらないです。とにかくこの本はすごい。にも関わらずあまりバズった記憶ないし*1、すごくもったいないので影響力あまりないですが紹介エントリを書いてみます。伝わるかどうか自信がないですが。。。
Kindleで無償公開されていますし、みんな読むと良いです、ほんとに。
どんな本?
東北地方整備局が、東日本大震災発生直後から自衛隊やその他復旧部隊が活動を始めるまでに実施した復旧以前のインフラ整備の組織運用面についての知見をまとめた資料です。元々は、他の各地方整備局に向けての内部資料だったようですが(奥付にもその記載あり)、Amazonとの協力で日本語版と英語版が無償ダウンロード可能(公開になったのは確か2月くらい)となっているようです。1時間、1日間、1週間というタイムスパンで地方整備局が組織的にすべきことについてまとめています。
本書が目的とすること、強い動機というのは序文に集約されています。ちょっと引用します。
備えてきたことしか、役には立たなかった。 備えていただけでは、十分ではなかった。
だからこそ、より備えを強化しなければならない、その為に役立てたいという思いを強く感じます。
時間と組織のスケールの切迫度
本書中で、
当初から最適な計画を立てるのは難しい。
と触れられている通り、大規模災害時は想定通りに起きてくれる訳ではなく、災害に対する準備や計画も必ずしもその通りに実行できない状況です。しかしながら、
全ての情報が確定するのを待っていては初動の半断時期を失してしまう。
経験に寄れば、大規模災害では、状況把握が遅れているところこそ最大の被災地であることが多い。
の言葉にもある通り、初動期の遅れは復興全体の遅れにつながることもあって、スピード感のある組織運営が求められます。さらに被災地域は広範囲にわたり、支援地域にムラがあってはなりません。大規模な組織運営であることも必須要件となっているのです。
期間限定であるとは言え、我々の世界では無理ゲーと思われることをやってのけるための数々の知見が詰まっています。
トップダウンで意思決定をする
そのために、集約と分配の効率性(物資、情報両面)を良くして、トップダウンで意思決定を行うことができるように組織の動き方を変えているようです。しかし、トップダウンと言っても、トップと現場が分断されている訳ではありません。明言されてはいませんが、おそらく組織階層は深くなく、多くても2〜3段階ではないかと思われます。それが一カ所に集まって意思決定から具体的な実施プランまでが同じ場で行われるようになっている動き方というのが特徴だと思います。
意思決定そのもののスピードだけではなく、それが伝達されるスピードにもこだわった組織運営のための工夫が随所に見られます。
準備について
結局、事前に計画がありつつ、本書で示されているような臨機応変な対応ができたのは、相応の準備をしてきたからです。準備に対する重要性について、本書では先ほどの序文を始め、以下のように何度も繰り返されています。
いざというときに、勉強不足による躊躇、決断力不足による不作為、連絡不足による混乱を生じさせないように、平時から災害時に自分の果たすべき役割について十分研究し、平常心で対応できるよう準備しておくことが大事である。
過去の災害を研究し、考察し、訓練したことだけしか、実際の役には立ちませんでした。
不思議なこと
本書にたびたび出てきますが、地方整備局は「実行部隊」であることに並々ならぬ誇りを持っているようです。国土交通大臣が権限を正しく現場に委譲したことにも触れられていますが、その委譲がなくても平時の運用や省庁の壁をを超えた組織運用をやってしまいそうな雰囲気が文面の端々に現れています。
役所で、なおかつこのスケールの組織で、どうやってこのような現場主義で居続けられたのか、どうやってこの文化を醸成することができたのか、非常に気になるところではあります。
まとめ
上記の他、休養の重要性(体制継続性の観点から)や体制縮小のタイミングに触れているなど、組織運営について役立ちそうなことが種々書かれてあって、無料というのが信じられない内容の濃さでした。本来の役立て方とはちょっと離れてしまいますが。。。
また、当時、我々がニュースで見ていた自衛隊などの活躍の前に、彼らが活躍できるように全力を尽くしてきた人がいる、という読み物としても良いと思います。
そんなに長くない資料なので、ぜひ読んでみて下さい。
*1:ニュース記事ばかりで、ブログとかでのレビューがないという意味で