冥冥乃志

ソフトウェア開発会社でチームマネージャをしているエンジニアの雑記。アウトプットは少なめです。

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Agile Japan 2012 愛媛サテライトに参加しました

日本最大のアジャイル開発についてのイベント、Agile Japanが今年も開催されました。2011年からの取り組みであるサテライト開催も継続しています。昨年は岡山サテライトも開催しましたが、今年は仕事のピークが来そうだったこともあり、愛媛サテライトに強力させていただく形にしました(協力と言っても、事例発表をすることと企画構成の一部をお手伝いした程度ですが)。

アジャイルサムライムーブメントの集大成

毎回海外よりスピーカを招聘するこのイベント、今年はアジャイルサムライのJonathan Rasmussonが登場です。2011年5月の発売以来、アジャイルの本としては異例の増刷を続け、全国各地で自発的に道場という名の読書会が立ち上りました。遅ればせながら岡山でも道場を開設していますが、個人的にはアジャイルの本を読むんだったら、とりあえずは「アジャイルな計画と見積もり作り」とこれを呼んでおけば良いと言うくらいおすすめの本です。その著者自らが日本のアジャイルの現場が集う場所で発言する、というのはこのムーブメントの集大成と呼ぶべきものになったかと思います。
キーノートのメインテーマは「リーダーシップ」です。
まず、ソフトウェア開発の現場で上手く行くリーダーシップのモデルとして以下の7点を上げています。

  • サーバントリーダー
  • 自己組織化
  • フラット
  • 権限委譲された
  • 責任を果たす
  • 自律する
  • メリットに基づく

その上で、ダニエル・ピンクの動画を紹介し、創造的な仕事をする人のモチベーションになるものとして以下の3点を上げています。*1

  • 自律
  • 熟達
  • 目的

人のモチベーションが何に左右されるかについてに言及したこの動画に関係するダニエル・ピンクの著作は「モチベーション 3.0というタイトルで日本でも出版されています。私も不勉強でまだ読んでいません。今度読んでみようと思います。
上記3点については、とどのつまり、指示命令系統を明確にすることを基本として、報酬と罰で人を動かす従来のコマンドコントロールでは現場を上手くマネジメントすることができないということを表しています。アジャイルに開発できるチームは、価値提供を目的として適宜帽子をかぶり直しながら自立的に動く*2ため、マネジメントが逐次コマンドを出すことはチームの邪魔にしかならないのでしょう*3
では、マネジメントはどうすれば良いのでしょうか?Jonathanはマネジメントに向けた4つのお土産として以下をあげました。

  • 自由を与える
  • 平均以上の給料を*4
  • パフォーマンス測定は幅広い観点で意義があり、攻略しづらいものを
  • 自分たちがマネジメントする人たちが自分たちより優秀であることを認識する

まあ、最後の最後にJonathanがおまけで言ったことが全てだと思いますね。今までのマネジメントではソフトウェア開発の現場では価値提供において成果を上げることができない、ということでしょう。

  • 良い仕事をしたい人の邪魔をするな
  • できる人を雇って後は放っておけ

Jonathanはキーノートの前のチュートリアルもしているのですが、こっちは要するに「アジャイルサムライ読むと良いよ」ってなるので、省略します。

マネジメントの時代

続くキーノートはゴールドラットコンサルティング・ディレクターの岸良さんでした。「ザ・ゴール」あたりで知られるゴールドラット博士のTOC理論の日本での第一人者のようです(すみません、経済/マネジメントに関してはかなり疎いのです……)。
メインは部分最適で成果を発揮するためのマネジメントの役割です。組織の仕事にはつながりとばらつきがあることを前提とした上で、組織としてより大きな成果を上げるためにマネジメントがどうすれば良いか、というお話でした。
その中でももっとも重要なことは、「今やらないことを決める」ことだそうです。それを裏付けるために、キーノートの中でマルチタスクゲームというゲームをしました。タスクシフトが効率にどれだけ影響を及ぼすかを実感できます。私の場合、笑えるくらい効率が変わりました。
なお、岸良さんによると、マネジメント層にこのゲームをやらせると怒るらしいですw というのも、自分が効率の悪い作業を指示していることがわかってしまうから。ぜひ、マネジメント層集めてやってみたいですね。

Jonathanのキーノートでも感じましたが、愛媛サテライトの内容も含めて全体的にマネジメントよりになっていた気がします。アジャイルな開発をする上で、開発プロセスやエンジニアリングプラクティスの導入が主なトピックになる時期は過ぎたということでしょう。チームがアジャイルに開発するように成熟していくにしたがって、今までとスタイルを変えなければならないマネジメント層の姿が浮かび上がってきました。

私の発表

愛媛/瀬戸内サテライトとして開催したので、岡山からの発表として事例紹介をしました。資料に関してはまだ発表するかどうか悩んでるところがあるので、も少しおかせて下さい(察して下さい)。
内容をざっくりというと、SIerで個人ベースにアジャイル開発を始めるときにありがちな、折衷案と闇アジャイラーの実態です。開発をアジャイルにしていきたいが、組織の壁や標準との軋轢を起こさないようにするための闇の活動についてご理解いただけたかと思います。私の事例は、ことSIerのマネジメント層からのアジャイルという言葉自体の受けの悪さも手伝ってのことなので、ぶっちゃけ周囲に理解があればやらなくても良い活動だと思います。

地方都市の課題

2011年に岡山サテライトを開催したときもそうだったのですが、アジャイル開発に対して大都市圏との盛り上がりの差を如実に感じました。それだけが尺度ではないと思いますが、端的にわかりやすいものとしては参加人数です。本会場では満員御礼でしたが、愛媛会場の参加者はスピーカを含めて8名です。

参加している方の熱意は本会場に負けなかったと思いますが、まだ取り組む人も組織も限定されており運や環境(周りの理解)に左右される、おそらくこれが地方のアジャイルの現実だと思います。そして、アジャイルな開発にシフトしたいけども環境に恵まれずに歯がみしている人も相当数いるのではないかと思います。さらに言うと「アジャイル開発」という言葉を知らなかったりとか、言葉を知っていても誤解に基づいた理解をしていたりという人も相当数いると思います。最近大都市圏では人材流動性が高まっているようですが、地方ではまだそういう状況でもありません。
そういう状況の中で、コミュニティにどういう貢献ができるか、というのが課題です。大きな課題なので、まだ答えは出ていませんが、愛媛や広島のアジャイルコミュニティや岡山の技術系コミュニティとも連携して形として残していければと思います。
今回の愛媛サテライトの中で、案としてでた中で面白そうなのは以下ですね。

具体的にどういう風に動いていくかは決まっていませんが、具体的な案が出たというのは良かったかと思います。前者に近いものとして、今TDDBC岡山開催に向けて動いています。これをちゃんと形にしていきたいですね。

考えたこと

現在、すくすくスクラム瀬戸内の主催をしていますが、アジャイルな開発をどっぷりやった訳でもないですし、自己流で現場に取り入れている中で積み重ねてきたものがあるだけです。なかなか変わらない現場、届かない現状もあります。私の目指すところはアジャイルに価値提供をし続けることです。そして、そういう価値観で開発をしている組織の中で、私自身も組織に強くドライブされて成長していきたいのです。それをコミュニティを通じて岡山の業界に還元していくことが目標なのです。
つまり、組織を変えていくことではなく、アジャイルに開発をすることが主眼です。組織を変えるのは自分の理想とする開発にたどり着くための準備です。最近、私のしたいことは「組織を変えること」ではないなあ、と強く思うようになりました。今所属している部署は、おそらく私の理想に一番近いと思います。この部署で組織を変える活動を続けていくことで、かなりの確率でそこにたどり着くことはできると思いますが、時間はかかると思います。今の仕事を通じてできることを探っていく姿勢を捨てるつもりはありませんが、私が達成したいことは組織が変わったそのもっと先にあるということです。
今、私は「岡山でアジャイルに価値提供をしながら、仕事を通じて得たものをコミュニティなどを通じて還元することで地域社会に貢献する」ことを仕事の目標に据えています。それを達成するために活動していこうと強く思いました。

*1:この動画は非常にすばらしいです。紹介しますのでぜひご覧ください。RSA Animate - Drive: The surprising truth about what motivates us with subtitles | Amara

*2:それを支援しているのが、こまめなフィードバックを基本とするスクラムやXPというフレームワークだと思います。

*3:もちろん、自律して動いているチームに限った話だと思いますが

*4:良い人材に仕事に集中させるための金を与えろ、ということです。それができない場合は・・・らしいです。